子どもや教育を切り口にして、楽しい活動を組み立てる

志水宏吉先生

大阪大学大学院 人間科学研究科 教授/教育社会学

どのような活動を行われていますか?

 いま一番中心になっているものが、ジャトーさんという会社との提携による活動です。ジャトーさんは音響や映像のシステムを開発している会社で、そういったシステムを大学や公共施設に導入している会社です。社長さんと繋がりがあったこともあり、面白いと考えて協定を結びました。

 一般的に、大学と企業のコラボレーションというものは、「商品を開発して儲けましょう」とか「新しい技術を生み出しましょう」とか、比較的リニア(線形的)な取り組みも多いですが、僕たちはもっと自由度が高いと言うか、ぼんやりしているとも言えるかもしれませんが、もっと手前のところで何か面白いことができないかなと考え、スタートしました。

 阪大側が僕も含めてトータル10人ぐらいで、ジャトーさんの方は教育部門の人が中心に十数名で参加されていました。そこでまずは色々と考えてみて「思いついたことをやっていきましょう」という流れで始まりました。この活動の全体は「JOINTプロジェクト」と名付けられたのですが、今の所動いているのはプロジェクトの01から04までの4つです。


子ども向けのゲームづくり体験

 まず一番目は、学校現場におけるプログラミング学習というものをテーマにして実施されたものです。これはジャトーさんのAir Touch Sensorという製品を用いたもので、子どもたちは、自分たちの作ったゲームを大きく身体を動かしながら体験することができます。最近では、キッズエクスポという子ども向けイベントで、Scratchというプログラミング学習のソフトを使ってゲームを作るというイベントを行いました。講師は、JOINTプロジェクトのメンバーと、教育工学研究室の学部生14名です。子どもの豊かな発想で作られたゲームをモニターに投影して、ぱっと触ると画面が反応するだとか、そうした教室を二日間にわたって開きました。盛況でしたよ。


子ども参観日 両親の職場を体験

 次に、二番目のプロジェクトですが、キャリアエデュケーションというものを始めました。その第一弾として、ジャトー社の従業員さんのご家族を対象としました。従業員さんの中にはお子さんがいる方もおられますが、その子どもさん12名を招待して、お父さんの職場を体験してみようというイベントでした。これは、親の働く姿を見ることによって、親の仕事を理解したり、あるいは家族のコミュニケーションや絆を深めたり、勤労観や職業観を育てるということを目的としています。

 内容としては、職場観察やインタビューを行ったり、あるいはその感想を発表したりしました。それから、大阪大学の学生とジャトーさんの社員が先生となって、夏休みの宿題についての質問会を行ったり、あるいはプロ棋士を招いて将棋教室を開くということもやりました。今後は、近隣の中学校の子どもたちを対象として、今までにない感じの職業体験プロジェクトを計画しています。


地域の学習教室

 三番目のプロジェクトは、学習教室の実施です。ジャトーさんの会社の近くで、子どもを対象とした勉強会が開かれているので、「阪大さんもなにか手伝ってくれないか」という話があり、そこで取り組みがスタートしました。中学校は、年に5回定期テストがあるわけですが、その定期テストが実施される前の土曜日にその補充学習の会があり、子どもが100人ぐらい来ているわけです。そして地域の奥様方も10人ぐらい来られていて、僕たちもそこに参加していました。将来的には、向こうのニーズに合わせて阪大学習教室みたいなことができればいいかなと僕は思っています。


未来の街をかんがえる

 四番目は、万博というものがテーマで、「なにか夢があることをしよう」という話になりました。そこで、ジャトー社さんが大きな地図をつくるのですが、そこに「未来の私達の街」や「未来の空港」というものをテーマとして、子どもたちに絵を書いてもらいました。

 また、豊川フェスタというお祭りが10月にあるんですけど、体育館か教室を借りて、子どもたちに書いてもらっている絵を取り込んで映し出すということをやろうかと思っています。

 これらの活動は、ほとんどまだ第一段階という感じで、今後、どのように発展していくかはわからないですが、子どもとか教育を切り口にして、ジャトーさんと大阪大学人間科学部が、楽しい活動を組み立てて行けたらと思っています。ジャトーさんからすれば、その活動は地域貢献活動という形になるでしょうし、僕たちにとっては、新たな研究の糸口につながるかもしれないと思います。楽しいですよ。


共創知とは何ですか?

 共創知というのは、なかなか難しいですが、4年前に未来共創センターができた時には、共創知を創るというよりも、社会を共に創るというニュアンスだったと思います。そして、阪大の大学院教育改革の流れで、大学の知と現場の知を組み合わせて共創知を提供しようということで、共創知という言葉ができました。

 たとえば、先に説明したジャトーさんとの活動がそうですね。つまり、「活動を共に創る」「一緒にやろう」という話です。しかし、活動を組み立てる事と、知識を組み立てる事はまた別のものでしょう。活動を通じて新たな共創知を創り上げるというのは、言うのは簡単ですが、まだできていません。

 ただ、自分なりの共創知のイメージはあります。教育学の人は知っていると思いますが、スクールバスモデルという一つの図式があり、それがイメージとしては近いでしょう。

 僕たちが今から十数年前に調査したところから生まれたものですが、それは「頑張っている学校」、つまり家庭環境的に厳しく、社会学的にいうと階層が高くない子どもたちが集まっているにもかかわらず、子どもがしっかりと学力を付けているような、そうした学校で見いだされました。

 これは大阪の教育現場では非常によく知られている話なのですが、僕たちからすると、自分たちがもっている教育社会学の知識と、そして現場の先生方が色々と考えて実践している知識があり、それをブレンドして出来上がったのが、そのスクールバスモデル、というわけです。これが共創知のイメージですね。


OOSにはいかなる役割が期待されていますか?

 まずは、大学が生き残るための活動が期待されるということがあります。大学というものは、大きな船のようなものです。大阪大学は日本の中でも大きな船の部類に入りますが、決して転覆しないとは言えません。しっかり生き残るためにやるべきことをしないといけないでしょう。

 さらに、大阪大学は工学部や医学部が強く、文科系は比較的小さいです。まずは、大阪大学のなかの文科系学部として輝き、それが、ひいては大阪大学が輝くということに繋がると思います。そのために、OOSによって社会との繋がりの中で生み出される知識と、大学の中で生み出される知識が両輪となって動いている必要がありますね。

 OOSでは、阪大全体で動かしているようなモデルよりも前を行き、大学の新しいやり方のモデルを生み出したいという気持ちがあります。

 今から10年ぐらいを目処にして、提携先を30箇所ぐらいに増やして、それぞれの先生方がしっかりと活動を組み立てていったら、かなりのことができるんじゃないかと思います。そして先生が30人いたら、そこから30個の何かが生まれたらいいんですが、現実的に考えるならば、30人中15人は大学の中でしっかり頑張って、残りの15人が社会と大学のつながりの中で頑張っていけたらいいでしょう。


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