学生インタビュー★

 

佐藤功先生

大阪大学人間科学研究科 教授/教職

 

インタビュアー:人間科学研究科博士後期課程 櫻木晴日

 

 西日本豪雨で被害を受けた愛媛県西予市野村町を拠点に、酒蔵を使った復興講座・イベントや「緒方洪庵」の名をもつお酒の醸造プロジェクトなど、多岐にわたる事業を展開される佐藤功先生にお話を伺いました。

 

同じ「におい」で結集したプロジェクトメンバー

 現在のプロジェクトには、地元団体の「のむら自治振(野村地域自治振興協議会)」、愛媛大学社会共創学部のほか、大阪大学の各部局(適塾記念センターや工学研究科、産業科学研究所など)など、いろんなバックグラウンドをもつ人々がかかわっています。なぜこのような多様な人々が集まってきたのでしょうか。

 原点は、西日本豪雨による突然の大きな被害に遭われた人・まちに対して、「何かしたい」という素直な思いや、もっと端的に「お酒が好き!」という共通項からでした。この町の人たちは、苦しいなかでも陽気で人を思いやり、そしてお酒が大好き。そこにお酒好きの研究者たちが結集してきた。同じ「におい」をもつ人が集まって、このプロジェクトが立ち上がりました。


被災時の野村の様子


緒方酒造の被害の様子

 

AとZが結びつく快感

 同じ「におい」の結集ですから、メンバーの専門性は別にAとBやCのように近くなくてもいいんです。実際に、現在のメンバーは「え、こことここがつながるん?!」という、思いがけない場所で出会った人々です。文系は、共通目的を見出しづらく、異なる専門分野の人々との連携がとりくいとのお話を聞いたことがありますが、ここでのスタートは、「困ってる人たちと何かしたい」とか「お酒が好き」といった共通項。だからこそ、一見距離が離れているAとZも、自然と一緒にプロジェクトに取り組むことができた。AとZが結びついたときって、快感ですよね。


さまざまな分野の方々が結集し、OOS協定の締結へ至る

 

共創は「道楽」から?

 私にとって共創は、目標を定め、それを「目指して」行ったものではなく、カッコつきの「道楽」が、気づいたときにはいつの間にか共創(的なもの、と呼ばれるようなもの)になっていたという感覚です。「仕事としてやらなあかん」ではない。「自分がかかわれること」、大きな意味で「おもろいから」でスタートしました。近江商人のように、私もあなたもみんなよし、専門分野は異なり一見関係なさそうだけど、何らかの共通項による集まりから「三方よし」が生まれる――共創の醍醐味です。私たちの例でいえば、西予市野村町の行政とのつながりが強い愛媛大学と、来訪のたびに野村のまちの人々と飲み、語り合っていた大阪大学のメンバーたちが、まちの中心にある本家緒方(緒方洪庵家と縁戚関係にある)の蔵を使って有意義な、おもしろいどんな企画ができるだろうか、と一緒に考えようとしている。今回は、「災害復興」や「お酒」がキーワードとなり結びつきが生まれましたが、もちろん、キーはほかのものでもよい。分野が違えば違うほど、おもしろい可能性がうまれます。


緒方酒造で醸造されていた「緒方洪庵」

 

専門分野との関連性は後からついてくる

 私の専門は教育ですから、教育とお酒がどうつながるのか、と思いますよね。でも、しっかり教育にも役だってるんですよ。

 例えば、現在の学校教育では、地域との連携づくりや防災教育が求められています。大阪大学の教職課程は、座学だけでなく、総合演習や教職実践演習といった授業科目で、数多くの現場実習を行っていますが、どうしても、当事者性をもった防災教育の体験は難しい。そんななか、昨年2月に、野村の中学校や高校で学校体験実習をさせていただくことができました。応募してきた有志学生は定員を超える13人。通常の学校体験実習とともに、被災時の学校やまちのようす、その後の防災教育等を学びました。2年たってもなお残るがれき処理を手伝ったり、畜産体験や陽気な野村の人たちとの交歓など、日ごろ体験できない多くの学びを得ました。今年の夏、「全国高校生まちづくりサミット」が野村を舞台に開催されますが、野村実習で「野村好き」になった学生たちを中心に、大阪大学と愛媛大学の学生たちがスタッフとして運営にあたります。現地を引っ張る方々とともに高校生とかかわる機会は、特にこれから教員を志望する学生にとって、貴重な経験となることでしょう。

 

地域の課題から日本社会の課題へ

 大学は、取り組んでいることを、学問として検証できる場所です。「お酒を飲みながら、いろんな人と話すのがたのしいなあ」→「こことここがひっついたな」→「振り返ってみると、こういう意味があったのではないか」と、いま、共生学や社会学の先生たちと一緒に、「関係人口」を視点に着目し、分析しています。

 これからの日本はさらに人口が減っていきますが、残った人口をみんなで取り合ってしまうと、必ず誰かがハッピーにはなれない。各地方が移住者を増やそうとしても、絶対どこかの地方は「負け」てしまいます。そうではなく、関係人口の視点で見てみると、たとえ移住しなくとも、その場所と関係を持つ人が増えていき、しょっちゅう出入りする人が増え、その場所のことを考え、それぞれの立場でいっしょに何かを行う人が増えていけば、人口は減っても豊かに過ごせますよね。「被災」は不幸なできごとでしたが、それをきっかけとして、大学がかかわることになった。末永くまちづくりにかかわっていくこの取り組みが、1つの交流モデルとなるなら、人口減少が止まらない日本社会において、それは意味あるできごととなる。ほらほら、愛媛と大阪の「お酒好きの集まり」が、大きな話になってきたぞ(笑)。

 このように日本社会の課題へと抽象化するに至ったのは、災害にも負けず前を向く、野村の人たちと課題に向き合ったからです。過疎が目立つ野村では、地域の子どもたちを小さいときから大切に育てていて、学校教育だけでなく、社会教育分野でも意識的にいろいろなことを教え、体験させている。でも、そこで問題意識を持った子どもほど、大人になればまちを離れてしまうというジレンマがある。ここに大学はありませんから。

 そこで阪大との取り組みを、以下のように捉えることができます。子どもたちが都市の大学へ憧れをもちそこに入学すれば、現行ではそのまま野村に帰ってこないことが多い。しかし、たとえば阪大や愛媛大をきっかけに多くの大学と野村とのかかわりが続けば、子どもは野村を離れても、これらの大学で学びながら、野村をフィールドとした活動に取り組むことができる。現に去年野村に行った愛媛出身の大学院生は、いまもプロジェクトに関わってくれています。

 学問的知見からフィールドを探して始まったプロジェクトではなかったものが、今は野村をフィールドに何ができるのだろう? と、多くの可能性が産まれています。「楽しい」が学問になってきた。どこへいくのか、どこまでいくのかわからないことが、「共創」の醍醐味だと感じています。


調査の様子


本家緒方酒蔵内での講義の様子

 

?→!→?→!→?→…の螺旋階段を継続させるサポート役としてのOOS協定

 新学習指導要領で導入される「総合的な探究の時間」が私の研究分野の一つですが、この時間は、生徒たちの問い(?)から出発して、一つの答え(!)を発見する。それを見つけたときには、また新たな「?」が生じ、その答えを見つけて…という螺旋上の繰り返しによって学びを深めていきます。際限のなさ、言い換えれば可能性の大きさが、共創と通じると思います。

 OOS協定はこれをサポートしてくれるシステムです。OOS協定によって、取り組みを次の展開へと拡大していけるやん!という感じです。いま、水害により醸造を断念した「緒方洪庵」というお酒の復活させるプロジェクトを行っていますが、現地の地域組織や大学と、オフィシャルに協定を結んだことで、できる幅が大きく広がりました。いろんな人々が結集したから協定となった部分もあれば、協定があるからいろんなことができた側面もあります。「酒好きのおっちゃんたちが酒造りまで始めたんか」が、「連携の一事業」と目されるようになった(笑)。OOS協定はゴールではなく、ここからいろいろ始まるスタート地点です。

 本プロジェクトの次の展開は読めません。もともと災害復興という「ピンチ」を逆手に取り展開していますから、逆境に強い。なにしろ距離的に遠い、そこを襲った新型コロナ。協定を結んだとたんに移動ができず、一時、活動が止まりました。会議も開催できず、これからどうなっていくのかという不安があったのですが、今や週に複数回も、野村の人たちや高校生たちと、Zoomの向こうとこちらで顔を合わせる毎日です。距離を感じなくなったのは、コロナの対応から。そこから、本家緒方蔵の復興プロジェクトや銘酒「緒方洪庵」醸造プロジェクトへと発展しました。今夏も、愛媛県が開催する復興博(南予きずな博)の1イベントとして、上述の全国高校生まちづくりサミットを開催したり、本家緒方蔵をキャンパスとして、大学や地元の方々の連続講座を予定しています。銘酒醸造プロジェクトもおかげさまで多くの方々の支援をいただき、感謝でいっぱいです。成功したら、次は愛媛の酒米を使ったお酒を造ろう、野村で酒米造って生産が増えれば雇用も創出できるぞ! など、メンバーたちの妄想は、とどまるところを知りません。

 「たまたま」でくっついた人々が活動を発展させていける「共創」、それを応援する「OOS協定」。同じ「におい」を持った人たちが、大阪大学をブリッジの中心としてさらに集まり、そこからさまざまなプロジェクトやきずなが産まれていくことを期待しています。

 取材した日はちょうど銘酒醸造プロジェクトについてのクラウドファンディングの初日でしたが、取材中も次から次へと賛同者が増えていました(※3月5日、開始5日目でクラウドファンディング第1GOAL突破。その後、ネクストGOAL挑戦中)。今後も活動がどんどん展開すると予想される佐藤先生たちの取り組みに、期待が高まります。

詳細はこちらからご覧ください。

  • 大阪大学人間科学研究科/人間科学部 「クラウドファンディング復興支援!銘酒「緒方洪庵」を復活させ、野村のまちづくりを応援したい」
    https://www.hus.osaka-u.ac.jp/ja/node/1891


    緒方洪庵復活プロジェクトのポスター

 

引用:READYFOR「復興支援!銘酒『緒方洪庵』を復活させ、野村のまちづくりを応援したい」https://readyfor.jp/projects/ogatalab_neo-ogatakoan1

 

(文責:櫻木晴日)


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