稲場圭信先生

大阪大学大学院 人間科学研究科 教授/宗教社会学

 オムニサイトが始まったのは2017年の4月。あらゆるところに知があります。ところは場所、サイト。あらゆるはオムニ。そのために、オムニサイトと名付けました。学外と人科の知を融合して共創知を作っていく仕組みとしてはじまりました。


各団体と連携したきっかけや内容

 2017年5月に、すでに防災・見守り・観光の協働実践でつながりがあった一般社団法人(全国自治会活動支援ネット、全国寺社観光協会)2つと協定を結びました。2ヶ月後、奈良の一般社団法人今井町大和観光局と協定を結びました。

 2017年11月にオムニサイトのホームページを開設。OOS協定にもとづき、久宝寺緑地公園や泉大津市で防災町歩きを一緒に行いました。

 この動きは企業にも広げていく必要があるだろうと考え、次は2018年4月にパナソニックホームズ株式会社と協定を結び、大阪大学グローバルビレッジのソフト面での仕組みを一緒に構想しました。そして、防災・見守りの実験を重ねてきたNTN株式会社とも協定を結び、一緒に防災フェアをしました。


共創知は一緒になって創っていく

 支え合う共生社会を創ろうと考えたとして、大学の専門知だけでは社会は変わりません。学問的に研究したものを社会実装していくという時には、当然ながらパートナーとして社会の様々な人と繋がる必要があります。そのような繋がりがなければ、一緒に創りあげていくという共創がなければ、社会のニーズに本当に沿っているのかも分わかりません。パートナーシップで、様々なことを共に実践していく中に生まれてくるものがあります。私自身は、利他主義、支え合う共生社会を創る上で何ができるかと考えた時に、これまでの自分の研究実践をもとに安心安全の社会の構築に貢献したいと思いました。そこで日本社会に長くある寺と神社、宗教施設を地域資源として、科学技術も導入して取り組んでいく方向が定まりました。パートナーがたくさんいます。どちらかが一方的に「知」を伝えるのではなく、一緒になって創っていくのです。

 理論的なものは大事ですが、それだけでは社会は変わっていかないと思います。


現場でしか取得できないもの

 イギリスに留学していたときに、ホームレスの支援に参加しました。現場に入って、最初はジロジロ見られましたが、ある時に、ホームレスからサンドイッチをもらいました。サンドイッチ屋さんが閉店後にホームレスに提供したものです。そのホームレスの人はキュウリが入っているサンドイッチが嫌だからと、私にくれました。そういった中に、現場に出ることによって知らなかった世界を知ることができたのです。ホームレスは人から支援してもらっているから、そんな食べ物の好き嫌いをしてはいけない、というのが一般的な発想かもしれない。しかし、ホームレスの人は同じようなサンドイッチを常にもらっているのです。好きなもの嫌いなものは人間だからあると思います。それも人間として当たり前だなと思いました。支援する側とされる側の関係の中で、支援される側はもらっているので、一方的に与えられているので、文句言わずに食べろとか我慢しろ、というのはおかしい話です。そうではない、それぞれの人間がお互いに尊重しながら、何ができるのか、その当時現場で体験をもと考えていました。


現場に出ることで社会をかえる

 3.11の時、現場に行き、様々な宗教者と涙を流し、汗を流し、協働実践をしました。そういった中で、社会は少しずつ変わっていく、その動きが見えました。緊急避難所となっていた寺や神社に行き、支援活動をしながら、現場で見て、聞き取りしたものを発信します。現場の方々から、そうしてくれと託されました。そしてメディアの取材も受けます。その後、行政と寺社宗教施設の連携が全国に広がって、社会は少しずつ変わります。今、東京都は小池知事のリーダーシップのもと、寺社を避難場所として活用しようということで東京都宗教連盟と一緒になって動いています。私も有識者として関わっています。これも自分自身が現場の方々と一緒に共創していく実践です。その一連の流れの中で本当に実現にむけて少しずつ進んでいます。最初は誰も知らない地味な活動だったのが、だんだんとそういう形になってきて社会に実装されていきます。もし学問の中だけで閉じた論文を書いて、一部の学者だけが読むものだったら、こうなっていないと思います。メディアの方々とも一緒に現場に入って話をし、様々な社会のアクターと協働することで、社会変革が起きる、そう信じています。


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