2022年度日本ヘーゲル学会研究大会のシンポジウムは、大阪大学未来共創センターおよび科研費研究プロジェクトとの共催シンポジウムとして、広い視野からフロイト、ラカンらの精神分析/精神病理学とヘーゲル哲学との関係を考えます。若手研究者を中心に学会外の研究者も招聘してシンポジウムを構成し、ヘーゲル哲学のアクチュアリティを問う機会とします。
二十世紀アレクサンドル・コジェーヴの『精神現象学』講義がフランス思想界に衝撃を与え、その影響下にフロイトの精神分析を解釈して独自の知見と技法を構築したジャック・ラカンの思想は、現代にも続く仏ポストモダン思想の重要な核を構成しています。例えば二十一世紀に入り現代思想界のトップを走るスラヴォイ・ジジェクの思想は、ラカン思想とヘーゲル哲学の融合を特徴とします。ラカン派精神分析の受容したヘーゲルは、ジジェクの手によって再びヘーゲル研究者に差し戻され、評価を待っているとも言えます。今回のシンポジウムは、そうしたヘーゲル解釈の最前線への橋渡し、あるいは開かれつつある沃野への最初の一歩となることを意図しています。
シンポジウムでは、最初に司会の野尻英一がプレゼンテーション「ヘーゲルと精神病理学/精神分析」を行い、本シンポジウムの基調をなす観点を提示します。池松辰男氏(島根大学)は、ヘーゲルの心理学や精神病理への知見が見られる「精神哲学」研究を専門とします。池松氏には提題1として、今日的観点からみて、ヘーゲル哲学のなかに、フロイトやラカンの精神分析の視点とつながる部分があるかどうかをヘーゲル研究の立場から論じていただきます。片岡一竹氏(新ソルボンヌ大学)は、ラカン研究を専門とされ、精神分析の実践経験もあり、初期「超自我」概念を中心とするフロイト研究にも取り組んでいます。片岡氏には提題2として、ラカンあるいはフロイトの立場から、ヘーゲル哲学との関係を論じていただきます。小川歩人氏(大阪大学)は、デリダ研究を専門とされ、特に初期デリダにおけるヘーゲル、フロイト、現象学の位置づけなどの研究実績があります。小川氏には提題3として、フロイトとヘーゲルの両者を現代的な視点から読み語るデリダの視点から、ヘーゲルとフロイトの関係を論じていただきます。
短いクロスコメントの後、フロアに開いたフリーディスカッションを行います。