REPORT 第三回共創知研究会 「闘争」としてのサービス:価値共創の理論とデザイン方法論

2021/02/05(Fri) - 15:48
 

REPORT

第三回共創知研究会


「闘争」としてのサービス:
価値共創の理論とデザイン方法論

 

講師:

山内 裕 先生 (京都大学経営管理大学院准教授)

やまうち・ゆたか/経済学部・経済学研究科、およびデザインスクールにて兼務。1998年京都大学工学部情報工学卒業、2000年京都大学情報学修士、2006年UCLA Anderson Schoolにて経営学博士(Ph.D. in Management)。Xerox Palo Alto Research Center研究員を経て、京都大学経営管理大学院に講師として着任。2015年4月より現職。

 

日時:2021年1月27日(水)15:00~17:00
場所:オンライン開催(ZOOM)
参加者:36人

 

 共創知研究会は「共創」をテーマとして、多様な分野から講師を招き、セミナー形式で開催している開かれた研究会です。人々の共生・協働の現場からうまれる「知」について語り合い、共創とは何か、共創知とは何かを広い視点から探求していくことを目的としています。第三回は京都大学経営管理大学院の山内裕先生を講師にむかえ、ZOOMを用いてオンラインで開催しました。学内外から36人の方にご参加いただき、充実した研究会となりました。

 講師の山内先生はエスノメソドロジーを用いて鮨屋やファストフード、イタリアン、アパレルなどの現場でのサービス提供者と客の間のインタラクションを分析し、サービスのあり方を研究しています。山内先生の著書『「闘争」としてのサービス—顧客インタラクションの研究』は渥美公秀先生をはじめとして多くの研究者から高く評価されています。

 山内先生は、サービスとは「闘争」であり、そこから「価値共創」が生まれるのだとは言います。実際のサービスの現場のエスノメソドロジー的観点からの細やかな分析を踏まえた明快な議論によって私たちの持つ通俗的なサービス理解が覆されていきました。

 サービスを提供するとは客のニーズを満たすことだと一般的に考えられています。しかし高級な鮨屋におけるサービスの調査から、山内先生は価値共創を基本とするサービスにおいては職人が客をテストし、否定していることを明らかにします。そしてヘーゲルの主人と奴隷の弁証法を参照しながら、職人と客の間には承認をめぐる弁証法的闘争が起こっていると論じます。客は承認を巡る緊張感のある闘争関係を経ることに依って初めて、自己を獲得できるのです。客が持っている素朴な主体理解を否定し、新たな主体への生成変化をもたらすものとしてのサービスのあり方を山内先生は価値共創を基本としたサービスとして発見しました。

 単純な客のニーズを提供者が満たす、という主客が分離したサービスではなく、弁証法的闘争を通じて客と提供者の双方が価値の創造に参加し、そして成長していくモデルこそがサービスのあるべき姿だと山内先生はいいます。近年あらゆる業種のサービス業化がしばしば問題として指摘されます。しかしこのような闘争としてのサービスはサービス業化を一概に否定すべきだという主張への批判であり、現代社会に広がる「サービス」という事象に対する新たなアプロ―チとなります。またこのサービス観の新しい展開はケアやボランティアなどのあり方を分析する際にも興味深いヒントとなるでしょう。

 今回の研究会では共生学系の宮前良平先生と社会学・人間学系の池田建人さんにコメントと質問を準備してきて頂きました。宮前先生はサービスと隣接概念の間の区別を、池田さんはサービスの持つ可能性や、闘争としてのサービスによって大衆化が起きるとはどういうことなのかを質問しました。いずれも議論の重要なポイントについての補足を引き出す興味深い質問でした。

 学生の中野さん、中川さんの質問は「闘争」に耐えられない人やマイノリティへの配慮を欠いたものではないかというものでした。この点は重要なポイントとなるでしょう。渥美先生が山内先生の研究を踏まえて「リスペクトのための闘いと言い続ける必要がある」とコメントしました。これは私たちの重要なミッションの一つだと思います。闘争の場に誰もが臨めるようになること、闘争に耐えられる主体変容の可能性を保つこと。これが共創の条件なのでしょう。

(文責:織田和明)