REPORT【学生プロジェクト】学校教育の質的調査法のこれから

2026/02/18(Wed) - 10:00
実施日 2026年2月2日(月) 15:00-18:00
参加者数 27名(登壇者3名・司会2名を除く)
実施内容

【開催目的】
① エスノメソドロジーを中心とした質的研究を学校で行うことの難しさを知り、参加者の今後の研究につながる場にする
② 学校で質的研究を行う学生同士で集まり、参加者の今後の研究につながる場にする

【実施場所】
人間科学研究科 北館2F ラーニングコモンズ

【詳細】
 本シンポジウムでは、エスノメソドロジー(以下EM)をはじめとする質的研究に精通した今井聖先生(琉球大学)を講師としてお迎えした。全体は3時間にわたり、二部構成で実施した。
 第I部(Q&Aセッション)では、登壇者および参加者による自己紹介を行ったのち、企画者が代表して今井先生に質問を行った。
 質問は、参加者から事前に募った質問や議論点を、今井先生のご著書『子どもの自殺問題の社会学』の内容に即して再構成したものを中心とした。今井先生には事前に、企画者からの質問と参加者からの質問リストを共有していたこともあり、当日はレジュメを持参くださった。これを資料として参加者に配布し、適宜参照しながら、著書執筆の経緯や過程を中心に、EMや質的研究についてお話いただいた。
 第II部(トークセッション)では、特別モデレーターとして栗原和樹先生(東京大学)、モデレーターとして知念先生(大阪大学・世話人教員)にもご登壇いただいた。知念先生の司会の下、教育研究に詳しい登壇者3名(今井先生、栗原先生、知念先生)を中心に議論が展開されると同時に、フロアからも質問やコメントを募る形で実施された。
 議論では、EM的関心に基づく研究の社会貢献可能性や、歴史研究/実証主義的研究との関連、さらにより素朴な問いとして「学校をめぐる事象を理解する」とはどのような営みなのか、といった点が取り上げられた。また、参加者の多くが大学院生であったことから、博士論文を書籍化するときのエピソードや、質的調査の結果を分析したり文章にしたりしていく際の考え方などについても紹介された。フロアからの積極的な発言も多く、結果として予定していた1時間半をちょうどよく使い切り、会は盛会のうちに終了した。
 さらに、会の途中の休憩時間や終了後には、参加者同士で話したり、名刺交換をしたりする様子が、会場内の各所で見られた。

プロジェクトの考察

第I部の質疑応答では、EMが理論的枠組みを先行させるのではなく、調査協力者との相互行為や対話の過程そのものに徹底して向き合おうとする研究姿勢であることを、再認識させられた。とくに、研究当初に盛んであった構築主義への違和感から、反理論的立場をとるEMへと舵をきっていった今井先生の研究経緯は、方法論の選択が研究者自身の関心や問題意識と深く結びついていることを感じさせるエピソードであった。また、自分とは異なる見解をもつ調査協力者(著書では遺族の方々)との「対話をあきらめない」姿勢が、社会的意義をもつ研究であるかの試金石になるという言葉も印象的であった。ほかにも、著書での限界や、質的調査データを一般化するほかの方法論との関係性も含めた議論が展開され、第II部へのスムーズな導入へとつながった。
 第II部の議論では、実証主義的な立場に回収されることなく、研究をいかに「現場に返す」ことができるのか、という知念先生の問いかけを起点に展開された。これに対して栗原先生と今井先生は、EMは規範的主張とは結びつきにくいため、直ちに「役に立つ」ことにつながりにくい一方で、現場理解を深めたり現場に入る前に参照可能な「チュートリアル」を提供したりできる点で有効だとお話なさった。その後、EMにまつわる困難として、記述の選択をめぐる恣意性や、ブルデューなど既存理論との整合性の問題、さらに国際比較や歴史的記述への応用困難性などが挙げられ議論された。最終的には、専門知識なしでも読めるEM研究は、人々のコミュニケーションを開く社会的意義をもちうることや、研究者が日々の生活における会話理解を反省的かつ円滑に行ううえでも重要であることが確認され、参加者の関心を惹いた。第II部全体を通してフロアからの質問が断続的に寄せられ、第I部では拾いきれなかった参加者の疑問や関心を解消・深化させる場になっていたと振り返られる。
 なお、参加者に事後アンケートを行ったところ、第I部については、Q&Aセッションを通して、『子どもの自殺問題の社会学』に関する参加者の疑問が概ね解消されたことを伺えた。とくに、書籍では書かれきれなかった執筆の経緯や困難を直接聞けたことが、参加者にとって魅力的だったようだ。また、第II部についても、「大変勉強になった」との感想が複数寄せられており、参加者にとって有意義な時間となったことが示唆される。
 総合して本プロジェクトは、質的研究方法や内容の理解を促進するとともに、参加者同士の対話を喚起するという当初の目的を十分に達成したとまとめられよう。

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(文責:薮本佳奈・元田安映)