本講演のポイント

最初の話題提供者であったコペンハーゲン大学の社会学者Anders Blok氏は、デンマークにおける下水インフラをめぐる環境運動の事例を踏まえて、市民から発信するという《思想としての地球》の可能性について論じてきました。次に、人間科学研究科の特任研究員であるAsli Kemiksiz氏は、トルコの西側に位置しているマルマラ海の小さな島で起きている環境破壊を生きる現地の人々の生活を報告しながら、人新世における《ローカルな実験性》の課題を深掘りしました。最後に、人類学研究室の森田敦郎氏と一般社団法人パースペクティブの高室幸子氏は、京都の京北地域で活躍している「工藝の森」という取り組みの紹介を通して、「つくること」と環境の関係を草の根から変えていくことを検討し、《物質と循環型社会》というテーマを扱いました。

今後の展望

地球環境を作り変えていくという現代人の営みは、人間以外の生き物たちとの共生関係を一方的に結び直します。同時に、「自然」と「文化」の分離を前提としてきた産業化時代の思想と、それに基づく社会制度へも予測しづらい影響を及ぼします。人間の影響力が、これまでとは質的に異なる段階に入ったことを警告する「人新世」(Anthropocene)という時代名称は、地質学を超えた学際的な共同研究、環境保護などの市民運動、そして人間の経済活動をめぐる論争を生み出しています。こうしたパラダイムシフトは、生命科学や生態学の知識と実践に強く結びついていますが、これから人間科学の研究者も無視することのできない課題になっていくでしょう。