外国につながる子どもたちが自分らしく生きる社会を目指して

2021/10/20(Fri) - 15:00

大阪市教育員会 : 指導部 人権・国際理解教育グループ 首席指導主事 冨士浜真二様

インタビュアー : 人間科学研究科博士後期課程 大川ヘナン

 大阪市教育委員会は、現在「未来共生キッズ・ジュニア育成プログラム(1)」を人間科学研究科附属未来共創センター特任教授の榎井縁先生と共にプロジェクト展開していらっしゃいます。今回は大阪市教育委員会の冨士浜さんにインタビューを行い、主にOOS協定を結んだきっかけや、取り組み、そして、今後の目標について伺いました。

写真1 大阪市市役所正面玄関

大阪大学とOOS協定を結んだきっかけは何でしたか?

 もともと大阪市教育委員会の指導部が中心となって、大阪市の教育をより充実させるために、大阪大学の様々な知見を教育委員会の取り組みに生かしたいという思いがありました。人間科学研究科の志水宏吉先生や高田一宏先生には、昔から大阪市の人権教育に深く関わっていただき、様々な助言やあるべき方向性を示していただきました。多文化共生教育について、以前は国際理解教育という名称で取り組みを実施しておりまして、その中心となっていたのが韓国・朝鮮につながる子どもたちに対する差別の解消に向けた取組でした。しかし、近年になり、在籍する子どもたちの国籍も多様となり、これまで培ってきた人権教育をどのように広い分野に活用できるのかを考えていたところ、もともと我々と同じように教育委員会で勤めていて、今は大阪大学にいらっしゃる榎井先生と私たちの取組が完全にリンクするということでお力を借りて、活動を進めています。

未来共生キッズの取り組みは今後どのように広げていく予定ですか?

 未来共生キッズの取組内容は、昨年度末に冊子にまとめ、今後は市内の学校へ冊子配付をして、現場の先生方の実践に役立てようと考えています。実は、未来共生キッズの冊子は『学力の基礎としての人権教育』というシリーズの中の一つの企画あり、同和教育編、LGBT編などのシリーズの中の多文化共生編という位置付けです。この冊子の内容は、大阪市の先生方が閲覧できるwaku×2.com-beeというwebサイトにも掲載をしていますが、サイト内の情報が豊富で、なかなか現場の先生方の目にも留まりづらいという欠点があります。そこで紙媒体の冊子にして、各学校へ配布し、さらに今年度からモデル配置した未来共生教育統括コーディネーターが現場の先生方の相談に乗り、ゲストティーチャーとつなぐ等、一緒に授業を創りあげていく体制を整備中です。
 冊子には様々な授業案が掲載されており、大阪大学だけでなく、NPOの方々と一緒に行う内容もあります。これまでの同和教育などの取組では現場の先生自身が授業案を作って、授業を展開していました。しかし、今では教員は多忙となり、すべてを行うのがなかなか厳しい現状です。そこで先生方の負荷を減らすという目的と、より多様な視点を持ってもらえるように授業と人々の繋がりをテーマにしたパッケージになっております。
 未来共生教育統括コーディネーターはまだ1名しかおらず、本冊子もできたばかりですので、まずは人権教育の経験豊かな先生方がいらっしゃる学校を中心に活用して頂くことになりますが、近年の外国にルーツのある子どもたちは、国籍も多様で、少数点在している状況で、大阪市の約6割の小中学校に外国籍の子どもたちが在籍しています。そこで、この未来共生キッズの冊子は、人権教育の経験の少ない先生方にとってもより授業の導入がしやすくなるのではと考えております。

写真2 未来共生キッズの冊子

今後はOOS協定でどのような取り組みを期待されていますか?

 現在の大阪市教育委員会としましては、学校に通う子どもたちのみならず、不就学の子どもたちの問題や中学校夜間学級等に通う若者たちの日本語学習の機会の保障を一つの課題と認識しております。そして、外国につながる子どもたちの教育のみならず日本社会で生きていく上での生涯学習としての学習機会を見つめ直す必要があるのではと感じております。その時に我々の課題となってくるのが人材の不足という点です。何かの取組を行う際に通訳ですとか、支援員が必要になってきますが、我々が現在有する人材バンクでは到底たりません。日本には多くの外国出身の方々がいらっしゃいますが、その方々の力はまだまだ活かしきれていないのが現状です。そこで、既に日本に住んでいる方々を巻き込んでいく新たな仕掛けを大阪大学と一緒に展開できたらと思っております。
 今回のインタビューで特に印象的だったのは「外国につながる方々が日本で自分らしく生きていくにはどうすればいいのか?」という当事者に寄り添った言葉でした。大阪市教育委員会さんでは、外国につながる子どもたちの今ある具体的な問題だけでなく、その子どもたちの将来も見据えた仕掛けを考えており、それは大学で研究を行う研究者サイドの我々も大切すべき考え方だと改めて感じました。今回のお話ありがとうございました。

(1)未来共生キッズ・ジュニア育成プログラムは、外国につながる子どもたちをはじめとする、すべての子どもたちが自分らしく生きることで、よりよい社会を創りあげるための教育プログラムです。

(文責:大川ヘナン)