REPORT 大阪大学人間科学部・人間科学研究科50周年事業 附属未来共創センターSDGsシンポジウム「共に生きる社会を共に創る-貧困、不平等、災害にあらがい住み続けるまちづくり-」

2023/01/18(Fri) - 08:00

実施報告

日時 2022年12月4日(日) 9:30-13:00
場所 大阪市中央公会堂 大集会室
主催 大阪大学大学院人間科学研究科 附属未来共創センター

プログラム

  • 【開会挨拶】:村上靖彦(附属未来共創センター・センター⻑)
  • 【附属未来共創センターの紹介】
    ① 附属未来共創センターの取り組み:木村友美(附属未来共創センター・講師)
    ② 未来共生イノベーター博士課程プログラム:榎井縁(附属未来共創センター・特任教授)
  • 【ディスカッション ① 貧困・不平等にあらがう】
    コーディネーター:志水宏吉 	(大阪大学大学院人間科学研究科・教授)
    パネリスト 	:藪中孝太朗	(株式会社IC・代表取締役)
    			:堀口安奈 	(株式会社Adelante・代表取締役)
    			:岡本工介 	(一般社団法人 タウンスペースWAKWAK・事務局⻑)
    			:福井康太 	(大阪大学大学院法学研究科・教授)
    	
  • 【ディスカッション ② 住み続けられるまちづくり―大災害の時代に】
    コーディネーター:石塚裕子	(附属未来共創センター・講師)
    パネリスト 	:高原耕平	(公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構  人と防災未来センター・主任研究員)
    			:小田祐士	(岩手県野田村役場・村⻑ 小田祐士)
    			:玉川裕貴	(岩手県立久慈工業高等学校3年生)
    			:山形一真	(岩手県立久慈工業高等学校3年生)
    			:高岡伊織	(愛媛県⻄予市野村地域高校生グループ「Nジオチャレ」・代表)
    			:稲場圭信	(大阪大学大学院人間科学研究科・教授)
    	
  • 【指定コメント】:金田安史	(大阪大学理事・副学⻑)
    			:三成賢次	(大阪大学理事・副学⻑)
    			:堂目卓生	(大阪大学・社会ソリューションイニシアティブ⻑)
    	
  • 【閉会挨拶】:澤村信英(附属未来共創センター・副センター⻑)

開催趣旨

 誰ひとり取り残さない社会の実現に向けて、人間科学研究科附属未来共創センター(以下、未来共創センター)では、人間科学研究科と市民、NPO・NGO、行政、企業など社会と連携してきました。「共生」を担う人材育成を行う「未来共生イノベーター博士課程プログラム」が10周年、「共創知」の創出のしくみである「大阪大学オムニサイト協定(OOS)」は5周年を迎えました。本シンポジウムでは、未来共創センターが取り組んできた教育、研究、活動の成果と課題を通じて、共に生きる社会と共に創る社学連携の可能性を討論しました。

内容

【開会挨拶】

 開催の挨拶では未来共創センター・センター⻑の村上靖彦先生より未来共創センターの特徴について紹介されました。2016年に設立された未来共創センターは二つの特徴を有しており、一つには社会の様々なアクターと共に取り組むことを目的とした組織であること。二つ目に弱い立場にある人々と共に行動を起こす組織であること。現在、社会から疎外されている人々は数多く存在しており、未来共創センターではそういった方々と共に行動する一般的な大学組織とは異なる組織であることが説明されました。

【附属未来共創センターの紹介】

 木村友美先生から未来共創センターの活動に関する説明が行われました。人間科学研究科では「国際性」「学際性」「実践性」という三つの柱を掲げているが、未来共創センターではその中でも「実践性」にフォーカスし、多様な組織と市民の実践性をもとに共創知を作りあげていく活動をサポートする立場にある。組織的な繋がりでは大阪大学オムニサイト協定(以下、OOS協定)でそれぞれの組織と継続的かつ発展的な活動を支援しており、学生の育成では未来共生プログラムが提供されていることが紹介されました。
 次に榎井縁先生より「未来共生プログラム」に関する説明がなされました。未来共生プラログラムでは2013年に文部科学省の博士課程リーディングプログラムの複合領域多文化共生の分野で採択されたプログラムであること。2018年までは人間科学研究科の他に五つの研究科から履修を募っていたが、その後人間科学研究科に内部化され、未来共創センターと共に活動をしてきました。このプログラムでは多様な他者に対する深い理解と敬意を持って、現場に寄り添うと同時に俯瞰的な観点でローカル・グローバルな次元で多文化共生を実現できる人材を育成することを目指していることが紹介されました。

附属未来共創センターの紹介の様子

【ディスカッション ① 貧困・不平等にあらがう】

 本シンポジウムのメインとなるディスカッションパートでは、前半は志水宏吉先生をコーディネーターとし、「貧困・不平等」をテーマにディスカッションが行われました。パネリストには、大阪市内を中心にしんどい地域にいる子どもたちを支援している株式会社ICの代表取締役である藪中孝太郎さん(未来共生プログラム一期生)、大阪をベースに在日ペルー人女性の支援・自立を行っている株式会社Adelanteの代表取締役である堀口杏奈さん(未来共生プログラム三期生)、高槻市をベースに一人も取りこぼさない、みんな安心できるまちづくりをテーマに様々な取り組みをしている一般社団法人タウンスペースWAKWAKの事務局長である岡本工介さん(未来共生プログラム七期生)、そして、大阪大学大学院法学研究科教授であり、未来共生プログラムの運営に関わってきた福井康太先生の4名です。
 最初にそれぞれの団体の事業内容や取り組んでいる課題に対する説明が行われました。しんどい地域の子どもの学力格差に取り組む藪中さん、外国にルーツを持つ子どもとしての当事者の経験を持っており、在日外国人女性が抱える不安定な立ち位置に対しての活動を行っている堀口さん、そして、地域・家庭・行政の連携を高槻市全体に広げながら、社会的包摂のまちづくりに取り組んでいる岡本さんに対して、福井先生からさらにそれぞれの活動に対しての深掘りが行われました。藪中さんの事業においては、子どもたちの居場所自体は既にある程度あるにも関わらず、子どもたちの低学力が置き去りにされていることが問題となっており、子どもたちが学びに向かうための環境づくりが必要であり、それを支援するための資金が大きな問題であることが語られました。次に堀口さんは、外国にルーツを持つ子どもたちの問題を取り組むにあたって、親の経済状況が安定しないことが、子どもたちの問題を作り上げていることもあるという状況を見て、外国人の親たちの経済的な安定を通じて、子どもたちの生活の安定、向上を目指していることが述べられました。岡本さんの事業では団体自体の次世代の担い手が大きな課題となっていること。しかし、現在は多くの大学生が社会問題に対しての意識を高く持っていることから、大学生を次世代の担い手として迎え入れることができるのではと語りました。
 最後に志水先生からそれぞれの事業における難しさと喜びは何かと質問が投げかけられました。藪中さんは事業における悩みが多すぎて、難しさがわからないという一方で、長年事業を行う中で、支援をしてきた子どもたちが大人になり、一緒に支援する側として事業に携わってくれることに喜びを感じていると振り返りました。堀口さんは日々売り上げをあげていかないと外国人女性を支援するという目標が達成できないことの難しさを感じているが、事業を通して外国人女性がエンパワーされる場面を見ることに喜びを感じていると語りました。岡本さんの事業では様々な人々が事業に携わる中で、意見の違う人々をまとめあげることに難しさを感じているが、反面個人では達成できないことをネットワークの力で達成することが喜びであり、支援対象の子どもたちや親の姿を見ることで達成感を感じると語りました。

ディスカッション①の様子

【ディスカッション ② 住み続けられるまちづくり―大災害の時代に】

 後半は石塚裕子先生をコーディネーターとし、「住み続けられるまちづくり―大災害の時代に」をテーマにディスカッションが行われました。パネリストは東日本大震災で被災地の一つである岩手県野田村から小田祐士村長、そして、同じく野田村から岩手県立久慈工業高等学校の生徒であり、震災を経験した玉川裕貴さんと山形一真さん。また、2018年に起きた西日本豪雨で被災した愛媛県⻄予市野村町より地域の高校生グループ「Nジオチャレ」の代表を務めている高岡伊織さん、公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構 人と防災未来センターで主任研究員を務めている高原耕平(未来共生プログラム2期生)、そして、最後に社会学の観点から防災を研究している稲場圭信先生の6名です。
 最初にそれぞれのパネリストから話題提供がされました。小田村長は震災当時の映像を振り返りながら、村がどのような被害に遭い、そして、どのように復興していったのかが述べられました。玉川さんと山形さんからは被災当時6歳であった当事者としての経験が語られました。玉川さんと山形さんは現在の野田村は復興し、住みやすい村になっているものの、若者離れが起きていることによって、将来の担い手が少なくなっていることを問題提起されました。そこでIT技術を活用しながら、村の将来を繋げていきたいと語られました。高岡さんからは被災した町の現状を見て、高校生である自分たちに何ができるのかと考えた時に、高校生グループが積極的に町の復興活動に関わることが、地域の人々を勇気づけることができると考え、現在、取り組んでいる活動を紹介されました。高原さんからは研究者の立場から話題提供されました。高原さんは、これまでは科学の力を活用しながら災害に抗うことを考えてきたが、今後は災害と共生する考えが必要ではないかと指摘されました。最後に防災に関するアクションリサーチを行っている稲場先生からは、それぞれの地域の多様なアクターをつなげることによって減災に取り組むがことができ、社会的なネットワークを新たに構築している事例が紹介されました。
 それぞれの話題提供に対して、高校生パネリストの玉川さん、山形さん、高岡さんからは他の地域の被災者の話を聞けたことが勉強になったとコメントがされました。高原さんはこれまでの伝承活動は高齢者が中心であったが、高校生など若者からも語ることの重要性が指摘されました。また、小田村長は話題になった自然災害との共生について、自身の経験から防災という災害を防ぐことは困難であるが、減災または自然との共生の必要性は経験上、理解していると述べました。また、被災の経験から利他主義の重要性についても気付かされたと言及されました。稲場先生は、利他主義は様々な被災地域で見られる考え方であり、被災された方々は一方的に助けられる対象ではなく、受けた恩を次に繋げていく力強い存在であると話されました。最後にそれぞれのディスカッションを通じて、言語化されていない地域の人々の知識や大切さ、減災という考え方、さらには災害を人災にさせないことの重要性を再確認されました。

ディスカッション②の様子

【指定コメント】

 ディスカッション①と②の後に、大阪大学理事・副学長である金田安史先生と三成賢次先生、そして、大阪大学社会ソリューションイニシアティブ(以下、SSI)の長である堂目卓生先生からそれぞれの指定コメントが述べられました。
 まず堂目先生からはSSIは命をキーワードに掲げる大阪大学のシンクタンクであり、附属未来共創センターと様々な活動を協働してきた組織であると紹介されました。堂目先生は本シンポジウムでは「自然(Nature)」が二つのディスカッションを結びつけるキーワードであり、狭い意味では海や大地を意味する自然であり、広い意味では「人間(Human Nature)」を示す。両方の「自然(Nature)」には恩恵と危害をもたらす二面性を持っており、それらの二面性と向き合いながら、困難の中で互いを助け合いながら社会を作り上げていくことが重要であると述べられました。
 次に三成先生からは、これまでの大学の役割として社会にアウトリーチしていくことが求められてきたが、共生・共創の考えに基づきアウトリーチだけでなく、現場の人々と作り上げていく考え方や思いを大学に再び返すことが重要であると語られました。そして、その返ってきた考えや思いがさらに大学における教育・研究を鍛え直すために必要な過程であることが述べられました。それだけに留まらず、大学がどのように変わったのかを社会に説明・理解させていくことももまた重要な点であり、附属未来共創センターはその一旦を担っていることが述べられました。
 最後に金田先生からは大学では教育・研究・社会貢献がこれまでの使命とされてきたが、これからは教育・研究、そして、社会を変えることが大学に求められている使命であると述べられました。社会を変えるということは、全ての人々が社会で活躍できる場を作ることであり、個々人が社会の中で幸せを感じることであると語られました。そして、大阪大学では社会システムの変革を担う立場にあり、客観的なデータをもとに社会の変革を示していく必要があることが述べられました。そして、社会の中に学びの場を組織的に作っていくことが重要であり、大学の中だけではなく、現場で人々と共に対話しながら作り上げていくことが必要であり、附属未来共創センターが現在行っている活動の重要性が改めて語られました。

【閉会挨拶】

 澤村信英先生から登壇者に対しての感謝の言葉と共に、未来共生プログラムをはじめとするプロジェクトを通じて、学生だけではなく教員側も成長することができたと述べられました。今後も未来共創センターでは今後も社会と大学を結びつける活動を担っていく必要があると表明され、シンポジウムは締め括られました。

登壇者の集合写真

【附属未来共創センター常設展示ブース】

 シンポジウムでは大阪市中央公会堂の地下1階の大会議室でポスター展示及びブース展示が2日間にわたって行われました。主にOOSの協定先の団体や未来共創センターで展開されているオープンプロジェクトのポスター・ブース展示が行われました。ポスター展示では7団体のOOS先の協定先の活動紹介、13のオープンプロジェクト、さらに学生プロジェクトのこれまでの成果に関するポスター展示が行われました。そして、ブース展示ではOOS協定先の5団体と未来共生プログラム等のブースが設置され、共同で開発した製品や日々の活動の詳細な説明を行っていました。それぞれのポスターやブースには多くの来場者が足を止め、これまでの成果を興味深く眺めていました。

常設展示ブースの様子

(文責:大川ヘナン)