REPORT ランチトーク特別編レポート 記憶と風化そして復興『復興のための記憶論』をめぐって

2021/04/08(Fri) - 15:48
 

REPORT

ランチトーク特別編レポート


記憶と風化そして復興
『復興のための記憶論』をめぐって

大阪大学大学院人間科学研究科附属未来共創センター

 

プレゼンター

宮前良平(大阪大学・助教)

コメンテーター

岡部美香(大阪大学・教授)

佐々木美和(大阪大学・博士後期課程)

冨安皓行(大阪大学・博士後期課程)

 

日時:2021年3月27日(土)14:00-16:00
場所:オンライン開催(ZOOM)
参加者:25人

・空白を知覚する

 2020年度最後のランチトークは、特別編として『復興のための記憶論』を出版された宮前先生、被災地で調査・活動してきた教員・学生そしてフロアの皆様とともに記憶と風化そして復興を考える会となりました。

 宮前先生のプレゼンはフィールドである野田村や写真返却お茶会の様子を多くの写真を用いながら生き生きと紹介することから始まり、『復興のための記憶論』の議論の核心にある空白の知覚論へと移っていきます。

 記憶の核心には写真に写っていないこと・被災者が語らないことである「空白の中心」があります。被災者は写真を見ることによってかつての地元という〈かつてあったもの〉を知覚します。それは支援者には明確にはわからないのですが、記憶の中心に空白が存在するということだけは共有されます。「空白の中心」が存在することを共有し、その周辺を語ることによって空白を将来へと伝えていくことが、復興のためのアクションリサーチになるのです。

・そこに写っていないからこそより強く知覚できるものがある。

・空白の記憶をめぐって:コメンテーターそしてフロアの皆様と

 コメンテーターの佐々木さん、冨安さん、岡部先生はそれぞれ宮前先生の著書を深く読み込んだうえで、いずれの方も視点から興味深い意見を述べていきます。

 佐々木さんは災害と「死」について語ります。「震災が起こらなかったならばありえた想像世界」 であるDays-Beforeを踏まえて死者と対話し、想起することについて、深く考えながらお話されました。

 冨安さんは震災の被害を直接的に経験していない私は、東日本大震災のはたして何を記憶していられるのかと問います。そして自身の記憶を振り返りながら私の中の〈かつてそこにあった〉人やものの記憶は、間接的に震災をおぼえつづけていくことに影響を与えているのではないかと論じられました。

 岡部先生は宮前先生の空白をめぐる議論を、アガンベンの非の潜勢力の議論と結びつけた上で従来の教育の取り組みに逆行する、うまくわからない状態でいることの重要性を指摘します。「空白」の持つ力と危うさ、そして宮前先生の議論が広い射程を持っていることを示されました。

 コメンテーターの発表や全体討議を通じて、宮前先生の喪失をめぐる語られない他者の記憶の存在を強く肯定する議論の豊かな広がりが発見されていきました。これは復興の現場のみならず、ケアの場面などにも広く援用されうる議論です。人々が共に生き、共に未来を創っていくためには、どのようにものを活用して交流していくのか。そのヒントに満ちたランチトークでした。

(文責:織田和明)