REPORT ランチトーク特別編 ブックトーク01 風景との出会いの中で展開され続ける「写真実践」

2021/08/03(Fri) - 08:00

ランチトーク特別編 ブックトーク01 レポート

風景との出会いの中で展開され続ける「写真実践」

写真家たちの眼を通じて捉えられた、ひとびとの暮らし

  • 2021年7月3日(土)14:00-16:00
  • オンライン開催(Zoom)
  • 参加者:55人
  • プレゼンター:
    吉成哲平(大阪大学・博士後期課程)
  • コメンテーター:
    冷 昕媛(大阪大学・博士後期課程)
    陸口雄斗(大阪大学・学部4年)

・生活を写す写真実践

 未来共創センターではランチトークの特別編として教員や学生が出版した本を紹介し、語り合う「ブックトーク」を開催しました。第1回で取り上げたのは環境行動学分野の吉成哲平さんの卒業論文をもとにした『写真家 星野道夫が問い続けた「人間と自然の関わり」』(大阪大学出版会)です。吉成さんは自身の写真家としての経験も踏まえながら星野道夫、東松照明、畠山直哉などの写真家の足跡を探求し、そして彼ら生涯を通じてレンズ越しに捉えた自然、歴史、そして人々の暮らしを明らかにしていく「写真実践」という独自の方法論で研究を進め、優れた本を執筆しました。一瞬を捉える写真ですが、しかし写真家が撮り続けることで歴史を形作り、私たちの世界の背後にある大きなつながりを写していきます。吉成さんは自身の身体経験を踏まえて、生きている生活者の現場とその奥にある普遍的な自然や歴史を長年の営みによって捉えるものとして写真家を描き出し、そして彼らが捉えた壮大な世界を私たちにわかりやすく伝えてくれました。


・眼には見えないけれどあるものを写す:コメンテーターそしてフロアの皆様と

 コメンテーターはコンフリクトと共生分野の陸口雄斗さん、吉成さんと同じ環境行動学分野の冷昕媛さんです。
 陸口さんは共に同じ時間を生きるものである人間と動物を大きな生命を捉える星野の生と死をめぐる記述が印象的だったことや吉成さんの研究の広い視野についてコメントし、写真実践という方法論などについて質問しました。
 冷さんは中国でも生命体の本質を見抜く星野道夫の本が人気であること、チベットの遊牧民とユキヒョウを例に挙げながら生物多様性の保全の現場の難しさをお話し、写真実践の根源的な問いは何か、現代社会において人間と自然は分断されているのではないかと質問しました。
 写真実践は眼には見えないけれど確かにある時間、空間的なつながりを写す営みです。質疑応答を通じて吉成さんは写真実践とはカメラで撮影する際のファインダー越しのためらいに働く思索や写真家の撮影する土地に対する思いを、写真やテキストの分析、そして同じ土地で自分も撮影することを通じて明らかにしていくことであると語りました。
 フロアの方からも写真実践について、本を執筆することについて、生活者という概念についてなど興味深い質問が寄せられました。出会った人々のことやその土地で経験した感覚を見つめ、それを写真や論文の形で吉成さんが表現していることが議論を通じて伝わってきました。
 人間科学というフィールドの大きな広がりが見える会となりました。きっとこの日の議論は遥か遠くまで続いていくものだと思います。

(文責:織田和明)