REPORT ブックトーク02 居場所・つながり・語り『⼦どもたちがつくる町―⼤阪・⻄成の⼦育て⽀援』から広がって

2021/09/14(Fri) - 08:00

ブックトーク0 2 レポート

居場所・つながり・語り

『⼦どもたちがつくる町―⼤阪・⻄成の⼦育て⽀援』から広がって

日時 2021年8月23日(月)17:00-19:00
場所 オンライン開催(ZOOM)
参加者 34人
スピーカー 松本 渚(⼤阪⼤学・博⼠後期課程)
中⻄美裕(⼤阪⼤学・学部4年⽣)
⽊村友美(⼤阪⼤学・講師)
村上靖彦(⼤阪⼤学・教授・著者)
司会 織⽥和明(⼤阪⼤学・特任研究員)
主催 哲学の実験オープンプロジェクト
共催 大阪大学大学院人間科学研究科附属未来共創センター

・個別の到達する普遍性へ

 人間科学研究科では教員や学生が出版した本を紹介し、語り合うブックトークを開催しています。今回は村上靖彦先生の『子どもたちがつくる町―大阪・西成の子育て支援』(世界思想社)を取り上げました。大阪の西成で調査・活動している学生の松本渚さんと中西美裕さん、世界各地のフィールドで人々の栄養を調査してきた木村友美先生、西成や看護などの現場を現象学で分析してきた著者の村上先生、そして学内外からご参加いただいた皆様と共に支援の現場について、調査・研究という営みについて議論を深めました。
 木村先生は本の概要を紹介しながら、村上先生に本を作っていく過程や、インタビュー調査について尋ねました。お話の中から見えてきたのは村上先生が西成の実践者の方々と長い時間を共に過ごし、深いリスペクトを持って実践の構造を取り出そうとしていることです。村上先生の手法は一般的な量的調査ではこぼれ落ちてしまうものを救い上げるための工夫の中で展開していることが見えてきました。



町を、日常の風景を書く

・受け⽌める⼈がいて、表現が可能になる:スピーカーそしてフロアの皆様と

 中西さんは西成高校の居場所カフェをフィールドに研究をしています。居場所づくりは行政の後押しを受けて拡大していますが、居場所とは何か、支援とは何かをよく考えていないために子どもたちのSOSを見過ごしてしまうような事例も見られることを中西さんは危惧しています。西成の実践は居場所づくりという概念が生まれる前から始まって発展して行ったものです。支援のつながりは継承され、居場所の外にも広がっています。この実践を「西成マジック」と捉えずに、同様の取り組みはどこででも可能なものとして広めていくことが必要です。
 松本さんは西成のココルームと釜ヶ崎支援機構に所属し、西成の様々な現場で活動されています。松本さんはSOSも含めた広く表現を受け止める人の重要性についてお話し、村上先生にインタビューデータの分析を中心にした調査方法について質問しました。村上先生の研究手法は現象学という枠組みに基づきながらも、西成に生きる人々が共有する土地の歴史や人権への意識にアプローチするために、柔軟に変化を続けていることが明らかになっていきました。フロアからも方法論についての問いが出され、研究者が実践の現場の出来事を言語化していくことについて考察が深められました。私たちは様々な表現を交わしながら生きています。表現を受け止め、背後に広がる普遍性を明らかにすることこそが研究者の役割です。今回は社会の中で生きる研究者としてのあり方を見つめ直す機会になりました。

(文責:織田和明)