REPORT 2021年11月1日、一般社団法人パースペクティブ様と「大阪大学オムニサイト(OOS)」協定の調印式

2021/11/24(Fri) - 08:00

2021年11月1日、大阪大学人間科学研究科にて、一般社団法人パースペクティブと「大阪大学オムニサイト(OOS)」協定の調印式を行いました

 一般社団法人パースペクティブは、10,000年もの間日本の風土で使用されてきた漆を中心軸に、工藝に受け継がれた「人と自然との関係」にヒントを学び、社会に調和と、人に感性を、そして、地球に持続可能な人のあり方をもたらすタネを蒔く活動をしています。

 新型コロナウィルスの感染状況が落ち着きつつある中で、無事11月1日に調印式を開催することができました。調印式では初めに大阪大学人間科学研究・山中浩司教授(未来共創センター長)から開催の宣言がありました。その後、研究科長の臼井伸之介教授よりご挨拶とともに、今回のOOS協定締結とこれまでの協働に対する感謝と今後のさらなる活動の発展への期待が語られました。

 「人間科学研究はもともと文理融合という学際的な研究科ということで49年前に設立され、来年には50年の節目を迎えようとしています。そういった流れから「学際性」「国際性」「実践性」を理念としています。「実践性」というのは大学で培った知識を社会と一緒になって「共創の知」を作る。そして、その「共創の知」をそれぞれのフィールドへと持ち帰り、活用して頂く循環を目的としています。そういう点ではパースペクティブ様の「行為の循環」という点では合致しているのではと感じております。パースペクティブ様はこれまでに「行為循環型モノづくり」「自然と人間との共生」をキーワードに京都市の京北地区や奈良県の曽爾村などで森づくりとモノづくりをつなげる活動を行なってきました。大阪大学とは森田先生との研究室と現在は木材の循環を明らかにするマテリアルフロー調査の実践において、貴重なフィールドを提供して頂いております。これまでのご尽力に大変感謝しております。今回の協定がお互いの活動をより一層活性化させ、広く社会に貢献し、また新たな共創の知を生み出す取り組みとなることを期待しております。今後さらなる連携と協力を宜しくお願い致します。」

(人間科学研究科長・臼井伸之介教授)

 「本日オムニサイト協定を締結できましたことを心から嬉しく思い、感謝申し上げます。ことの始まりは京都繊維大学で行われた Future of Design Educationというワークショップで森田先生に出会ったことでした。このワークショップの中での私は「これからの社会で人がまだまだモノを生み出しながら、この地球で生きていくためには工藝から学ぶことがあるのではない」ということをお話ししました。工藝の「藝」という旧漢字は人が木の苗を捧げ持って植える象形文字です。この文字は人が創造する上のあるべき態度を示していると私は考えてきました。共同代表の堤は家業の漆の精製業者として人と自然の育てた樹液の生々しさと向き合う日々の中で、このことをよく理解している人だと思っています。漆をはじめ、日本伝統のモノづくりの生態系はこの1・2世紀の間にグローバル化と工業化の影響を受けて、大きな綻びを見せています。里山もまた同じ時期に同じ影響を受けて取り残されて、今の姿があるように思います。私たちの活動拠点の京北地域は、京都中心地から車で1時間ほどの距離にある山師の郷です。平安京創設の時に木材供給地として桓武天皇の派遣した山師の一族によって切り開かれました。この地域で一般社団法人パースペクティブは森を育むことと、モノを作る事がひと続きに営まれる地域社会を模索しています。京北地域と平安京の関係性が物語るように自然は文化の礎であって、人の文化創造がまた、自然の新陳代謝を促すという意味で循環的で、気候風土や地域の固有性が生かされる社会への模索でもあります。この活動の方向性や思想の全体を「工藝の森」と私たちは呼んでいます。パースペクティブはトヨタ財団の支援を受けてこの思想を具現化する実験の場を用意しています。片方の車輪としては工藝素材を育む森づくりにすでに着手しておりますが、もう片方の車輪としてファブビレッジ京北というメーカースペースを作るための物理的な場所として準備中です。森とモノづくりがどのように繋がっているのかを明らかにして、またどのように繋がることが自然なのかを考え、実験し、手を動かす、そのリアルの経験を通して綻んだつながりを再編成していくこと、それはファブビレッジの活動の目的です。そうした繋がりを細やかに描き出すために大阪大学Ethnography Labの専門性に助けられています。またこうした探索の場や地域コミュニティを研究のフィールドとして学生たちに提供していくことに弊社としてもとても意義を感じています。この協業によって可能となる活動は土着的で草の根的な活動である一方で、工藝の藝の旧漢字が示すような人の創造的な活動と自然のリズムが一体となった日本的な世界観を見直すという意味で世界の中でもユニークな枠割を果たしていくのではないかと思っております。この協業のいく末を私自身とても楽しみにしております。今後ともどうぞ宜しくお願い致します。」

(一般社団法人パースペクティブ・松山幸子様)



 「松山さんのおっしゃった通り、エスノグラフィーラボとパースペクティブは、作ることと、エスノグラフィー、もしくは人文社会学的な知を用いて知ること、を結びつけた新たな研究と実践を切り開こうとしています。現在気候変動の悪化が極めて厳しく、2050年までの二酸化炭素の排出の100%の削減が求められる状況になっています。このような気候変動対策を実現するためには経済活動をローカル化し、パースペクティブの工藝の森が描くように、人々が作ることの価値を自然の再生に繋げていくような試みが不可欠です。しかし現状そのような試みが必ずしもうまくいっていないだけでなく、アイディアも十分にあるとは言えないと思っています。パースペクティブの工藝の森の構想は日本の伝統的な工藝に着想を得つつ、今気候変動対策として必要とされている経済のローカル化、もしくはregenerativeな、自然再生するような経済の構築にとって極めて重要なプロトタイプ、もしくは実験的な試みになるのではないかと思っています。私とモハーチ先生は気候変動に関する研究をしてきたわけですが、このことが我々にとってパースペクティブさんと協業させて頂く第一の理由になっています。それと同時にパースペクティブの皆さんと私たちとエスノグラフィーラボでは共に新しいタイプの学問・知のあり方を模索しています。それは人文社会科学の批判的な知識と作る実践を結びつけた新しい知のあり方です。工藝の森に代表される「循環型の経済」と「作ることと人文社会科学を結びつけた新たな学問のあり方」、この二つがパースペクティブさんとエスノグラフィーラボの協業の柱となっています。いずれもこれまでに前例のないような新しい試みになっています。そのため、様々な困難や発見、そして経験を一緒にさせて頂いております。これからもこのようなフロンティアを切り開いていくような活動を一緒にやらせて頂けること楽しみにしております。」

(人間科学研究科パートナー担当教員・森田敦郎教授)

 最後に未来共創センター副センター長の渥美公秀教授より協定締結への感謝と共に今後のより広く大阪大学との交流や他の協定先企業様とのコラボレーションに対する期待が述べられ、調印式は締めくくられました。