IMPACTオープンプロジェクト「記憶の継承ラボ」は、10月26日(土)にシンポジウム「ポスト体験時代の記憶の継承―アジア地域史の視座から祈念する私たちのダイアログ―」(主催:IMPACTオープンプロジェクト「記憶の継承を祈念するグローバル・ダイアログ(記憶の継承ラボ)」;大阪大学グローバル日本学教育研究拠点・拠点形成プロジェクト「21世紀課題群と東アジアの新環境:実践志向型地域研究の拠点構築」、共催:沖縄市戦後文化資料展示館「ヒストリート」;大阪大学中国文化フォーラム)をオンラインで開催しました。
「記憶の継承ラボ」の活動を通じて、これまで私たちが長崎、沖縄、福島、水俣などの各地の現場で尽力する方々から多くの示唆を得る中で強く認識するに至ったのは、それぞれの地域に生きる人びとの営み続けてきた戦中戦後の「生活の現場」を重層的な歴史空間として連続的に捉え直していく重要性でした。そこで、被爆校舎から原爆体験を伝え継ぐ長崎城山小学校平和祈念館の実践家の方々をお迎えした昨年のシンポジウム「記憶の継承を祈念するグローバル・ダイアログ」(https://www.hus.osaka-u.ac.jp/mirai-kyoso/ja/reports/231220a/)に続く今回のシンポジウムでは、沖縄市で戦後史の編纂とその継承に尽力されている沖縄市戦後文化資料展示館「ヒストリート」(写真1)に関わる現場の方々をお招きし、貴重なお話を伺いました。当日は休日にも関わらず、国内外から総数100名の方々にご参加頂きました。
まず開会に際して、ラボの代表である三好恵真子先生より、日本・中国大陸・台湾・韓国における東アジアの国境を越えた学術交流と若手研究者の育成を十数年以上にわたり続けている「大阪大学中国文化フォーラム」の活動の蓄積も活かしつつ、2022年から毎年開催してきたシンポジウムの第3回目としての本企画についての趣旨説明を頂きました。城山小学校平和祈念館の保存に長年尽力された被爆者である内田伯氏の「目から消え去る物は、心からも消え去る」という大切な言葉(写真2)も昨年のシンポジウムを踏まえて改めて共有して頂いた通り、20世紀のような「戦争」により分断されることのない「アジア地域史像」を構築しながら、真に平和な暮らしを未来世代に引き継いでいくことへの願いが本シンポジウムにも込められています。
第1部「<話題提供>コザの戦後史の継承が拓いていく未来への展望」では、初めに、記憶の継承にまつわるそれぞれのフィールド(長崎・中国東北部・福島・沖縄)でラボの院生メンバーがこれまで受け止めてきた事柄について、現地で撮影した写真をもとに発表しました。続いて、「沖縄市戦後文化資料展示館「ヒストリート」の取り組み」のセッション(写真3)では、長年にわたり沖縄市史編集に尽力され、体験者の貴重な「語り」の聞き取りも行ってこられた恩河尚様と伊敷勝美様にご登壇頂きました(伊敷様は「ヒストリート」での事前収録の動画を通じてご参加頂きました)。まず、恩河様より「基地の街」、「戦後沖縄の縮図」と形容される沖縄市の中でもコザの街の成り立ちについて解説を頂いた上で、これまで私たちが現地でお二人から学ぶ中でとりわけ心に残ってきた事柄について対話形式でそれぞれお話を伺いました。恩河様と伊敷様からは、地域ごとに戦争体験の様相が大きく異なる沖縄の中でも沖縄市に暮らしてきた人びとの複雑な経験について教えて頂くと共に、「沖縄市」という地域の戦後史を知ることが「なぜ?」を考えることにつながり、ひいては未来の「まちづくり」へと拓かれていくという大変示唆に富むお話を頂きました。
また、第2部「<基調報告>戦争がもたらした社会の変容と向き合う生活者の思想的営為」(写真4)では、写真家たちが向き合った1970年前後の現実と、日中「二つの東北」の痛みと向き合いながら暮らす結婚移民の中国人女性たちのライフストーリーについて、環境行動学DCの筆者と王石諾さんがそれぞれ報告を行いました。ディスカッサントを務めて頂いた小林清治先生からは、各報告へのコメントに加えて、ともすれば大きな主語の下に回収されてしまいがちな、戦後の経験を伝える一人ひとりの声について、その多数性を保ちながら私たちが耳を傾け、そして、それらのあいだでの対話を醸成していくことが、記憶の継承を実りのあるものとしていくのではないかという貴重な示唆を頂きました。
最後に、第3部「<総合討論>「アジア地域史から共に考える私たちの暮らし」」では、フロアーの皆様との活発な議論を行いました。とりわけ、恩河様が市史編集に携わる一人として、戦争のメカニズムについてどんな小さな事柄でも積み上げつつ解明していくことで、出来る限り戦争が起こらないようにするための調査研究を行うことを大切にしているとお話されていたことは、「ポスト体験時代の記憶の継承」の意味を考える上でも、私たちの胸に深く刻まれました。
閉会後も多くの方々が会場に残って下さり、参加者同士での交流を深めました。シンポジウム終了後には、昨年ご登壇頂いた城山小学校平和祈念館の山口政則様と恩河様がお電話をされ、沖縄・広島・長崎のそれぞれの現場での活動について共有されたことも伺い、大変有り難く感じています。
おかげさまをもちまして、盛会のうちにシンポジウムを終えられましたことを感謝申し上げます。昨年(https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/94661/)に引き続き、今回のシンポジウムについても総括としてのブックレットを年度末までに発刊することを予定しています。また改めてブックレットをご覧頂きつつ、沖縄市や「ヒストリート」へも是非、足を運んで頂けましたら幸いです。
末筆となりますが、恩河様と伊敷様をはじめ、この度のシンポジウムの開催にあたり多大なお力添えを頂きました沖縄市戦後文化資料展示館「ヒストリート」の皆様に心より御礼を申し上げます。
貴重な機会を頂き、本当に有り難うございました。
沖縄市戦後文化資料展示館「ヒストリート」(2024年10月筆者撮影)

写真2. 長崎城山小学校平和祈念館(2021年3月筆者撮影)

写真3. 第1部②「沖縄市戦後文化資料展示館「ヒストリート」の取り組み」

写真4. 第2部「<基調報告>戦争がもたらした社会の変容と向き合う生活者の思想的営為」
