人科生の声  大工 泰裕さん

自分の研究を市民の方にわかりやすく伝え、対話するためのアイデアを模索

「振り込め詐欺をテーマにしたサイエンスカフェを開催するのですが、一緒にどうでしょうか?」私と未来共創センターとの関わりは、修士論文で副査を務めてくださった先生からの、この1通のメールで始まりました。それまで詐欺を防止する研究をしながらも、実社会への貢献ができていないことにもどかしさを感じていた私にとって、これは願ってもないお話でした。すぐさま「よろしくお願いします」と返事をしたのを、今でも覚えています。

一般の方々を対象とした対話型の発表は、私にとって初めての経験で、準備段階から苦労の連続でした。研究に興味を持ってもらうためにはどんな仕掛けを取り入れたらよいのか、誤解を与えずに専門的な話を理解してもらうためにはどんな伝え方がよいのか、一般の方々は何を知りたがっているのか、様々な議論をセンターの先生、共同発表の先生との間で交わしました。最終的に、「参加者の方々に騙される経験をしてもらうことで詐欺の怖さを理解してもらう」というアイデアに行き着き、それを取り入れた発表を行いました。

発表を通して実感したのは、社会は研究に、詐欺被害の具体的な対策を求めているというシンプルな事実でした。質疑応答では、「詐欺被害を防止するためには結局何をすればいいのか?」という質問が多く見られ、曖昧な結論で終わらせてしまう学会発表とは求められるものが大きく違うという印象を受けました。一方で、研究結果から確実な詐欺対策が導かれるわけではありません。研究結果とそれから得られるインプリケーションを、いかに誤解なく伝えるかということは、専門家に向けて研究結果を伝える学会発表とは違った難しさ、そして面白さがありました。

大阪大学大学院人間科学研究科 行動学系
人間行動学講座 社会心理学
博士後期課程2年

大工 泰裕さん

大阪府出身。大阪大学人間科学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科博士前期課程修了。現在、同研究科博士後期課程在学中。専攻は社会心理学で、特に詐欺に騙される心理学的メカニズムについて研究をしています。現在は、博士論文のための研究の傍ら、詐欺被害の減少を目指した大規模共同研究にも実施者として参加しています。