五十嵐彰准教授のご著書『可視化される差別』が第68回日経・経済図書文化賞を受賞
このたび、五十嵐彰准教授が、ご著書『可視化される差別 統計分析が解明する移民・エスニックマイノリティに対する差別と排外主義』(2025年2月 新泉社)により、第68回日経・経済図書文化賞を受賞されました。この賞は、過去1年間に刊行された経済・経営に関する図書の中から優れた作品を表彰するものです。 以下に五十嵐先生からのコメントを掲載いたします。
本書が刊行されてから9ヶ月が経ち、本書について語る機会をいくつかもらう中で、本書を通して伝えたいことが何となく2つ程度にまとまってきました。まずは頑健な研究をもとに発信すること、そして幅広く研究を読むということです。
1つ目について、本書で扱うのは差別や排外主義など、センシティブであり、個々人の政治的な考え方が色濃く出てくる話題です。読者や学生の中には、自分の考えに合わない分析結果を提示され、受け入れがたく思ったり、時に苦痛に思うこともあるでしょう(私が開講する差別に関する授業に対して「講師の考えが偏っている」などと言われたことがあります)。こうしたトピックであるからこそ、客観性を可能な限り志向する研究をもとに判断することが大事になります。公的な統計も巷に溢れており、そうした情報をもとに考え、発言することが何よりも大事です。
2点目ですが、差別とは、あらゆる場面で生じるものです。よくいわれる雇用や賃金、賃貸だけでなく、裁判や警察による職務質問、教員によるテストの採点、ショッピングやスポーツの判定、果てはナイトクラブの入場拒否にいたるまで、外国人や人種・エスニックマイノリティに対する差別が観測されています。そのため、多岐にわたる分野からの視点が必要となってきます。私は普段、名乗らなければならない時には社会学者を自称していますが、差別を考える上では社会学だけでは限界があり、経済学や心理学、政治学といった他の社会科学の領域を広く勉強する必要があります。大阪大学の人間科学部は学際性を重視していますが、本書もその路線を踏襲したものといえます。
2025年は残念ながら本書が注目を浴びる年となってしまいました。おそらく外国人に関する統計や先行研究など読まずに発信しているのだろうな、と思わされる発言を聞く機会が特に多い年でしたし、おそらく来年になっても状況はすぐに好転することはないでしょう。そんな状況だからこそ、過去の研究や統計情報に真摯に向き合うことが必要です。本書がその助けとなればこれ以上の喜びはありません。
- 五十嵐准教授のプロフィール:
- https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/a9d6609d1cb47237.html



